母語のレベルが外国語のレベルを決める『外国語を身につけるための日本語レッスン』

「第二言語である外国語は、必ず母語である第一言語の土台の上にのる」「外国語の学習には母語が基本である」といわれています。

私もまたその立場に立つ者です。

したがって、中国語を教えるときであっても、母語である日本語を意識し、対象化することを意識しています。

大人が外国語を覚える際には、やはり母語を立脚点にすることが必要です。

今日は『外国語を身につけるための日本語レッスン』(三森ゆりか・白水社)という本を紹介します。

母語の能力を向上させる方法としてまっさきに挙がるのは、読書の重要性ではないでしょうか。

しかし、本書の著者は、たくさんの読書をして母語が豊かになれば外国語が習得できるわけではないと指摘し(もちろん読書が不要だとは言っていませんが)、「言語技術」を学習する必要があると主張します。

本書は、日本語話者が発する「どうなの?」などのあいまいな表現は欧米人(本書での「外国語」は主に欧米の言語を指していると思われます)には通用しないと述べ、言及する対象や自分が伝えたい内容、相手の発言を分析し、明確に言語化する必要性を説き、そのために必要な練習を提示しています。

事実の描写にせよ、意見の表明にせよ、必要なことは5W1H(いつ、誰が、どこで、など)を中心として情報を整理し、相手の理解しやすい順に提示していくということだという点にはうなずけます。

発言する際にこれから何について話すか(ラベリング)、話したいことはいくつあるか(ナンバーリング)を宣言すること、「概要から詳細へ」「空間的秩序」「時間的秩序」といった原則を、普段日本語を使う生活でも意識し、練習していけば、文脈に依存しにくい外国語を使用する際にも「わかってもらえない」事態を回避できるでしょう。

本書は「外国語を身につけるための」と銘打たれていますが、それに限らず口頭でのコミュニケーションや文章を書くにあたって伝えたい内容を整理し、意識的に構造化することは必ずやプラスにはたらくはずです。

普段の生活の中でも実践できる練習が紹介されていますので、家族や友人との何気ない会話の中でも生かすことができるでしょう。

本書の姉妹編に『外国語で発想するための日本語レッスン』(三森ゆりか・白水社)という本もあります。こちらは読書技術を中心に、テキストを分析する方法について紹介しています。合わせておすすめします。