三修社から、『中国語イラスト辞典』という辞典が発売されています。
こういった図解辞典は迷わず手に取るようにしています。見ていて飽きません。
イラスト付きの辞典といえば、かつては1992年には『中国語図解辞典』、2011年には『中国語生活図解辞典』という本が出ています。
どちらも良い本で、わたしは両方所有しています。
とくに、2011年の『中国語生活図解辞典』のほうは情報も新しく、それぞれの語の台湾での表記も掲載されているので、大陸と台湾での表記の違いにも目を向けることができます。
そして、今回紹介する『中国語イラスト辞典』は、もともと中国で外国人学習者向けに出版された《中国語図解辞典(汉语图解词典(日语版))》というタイトルの本で、まったく同じ内容のものがこのたび日本市場で発売されたという形です。
この《汉语图解词典》は中国がかなり気合を入れて作った本のようで、日本語版のほかにも、英語、フランス語、イタリア語、ロシア語、アラビア語、ドイツ語、スペイン語、韓国語版など、17年5月現在で60種類以上の言語で発売されています。この数を見るだけで、中国が対外中国語教育にどれだけ力を入れているかが伝わってくるでしょう。
この本は、現代中国人の生活を紹介するという方針から編集されているため、形の上では同じように見える単語や状況でも、われわれ日本人のイメージするものとは異なっているものが多い点に興味を引かれます。
たとえば、“婚姻”(婚姻)というページをみてみますと…
②征婚(結婚相手を募集する)したり
③媒人(仲人)などに④介绍(紹介)してもらったり、
⑤相亲(見合い)をしたりして相手となるべき人に出会い
⑥约会(デートをする)などを通して
⑦谈恋爱(恋をする)し
⑧拜见父母(両親に会う)という緊張の時を迎えて、晴れて⑨订婚(婚約をする)に至るわけです。
このあたりの過程は日本とそう変わりませんが、
⑩买房子(家を買う)
⑪装修(内装をする)
あたりになってくると、少し違和感が生じてきます。
そして、
⑫布置新房(新婚夫婦の飾りつけをする)
をした後に、晴れて
⑬登记结婚(結婚届を出す)
となるわけです。
日本では家を買うというのは一般的には子ども生まれて、収入も増え、いまの家が手狭になってきたタイミングだと思うのですが、中国では結婚に合わせて家を購入するのが一般的です。
それゆえに、単語の並ぶ順番もこのようになっているわけです。
ほかにも、葬式などもわれわれのものとは異なっている部分が目立ちます。
㉖の小さな箱は“骨灰盒”といって、「骨つぼ」なのですが、われわれが使っている「つぼ」とはことなって、“盒”という文字どおり箱状になっています。
ほかにも、視力検査表なども日本と中国では形状が異なります。
アルファベットの“E”のような形がいろいろな方向を向いているのですね。
2011年の『中国語生活図解辞典』は、どちらかというと、お互いの文化で共通のものを中国語でどう言うかという点に焦点を合わせた本であるように感じます。
いっぽう、この『中国語イラスト辞典』は、外国人に現代中国を理解してもらうことを主眼に編集されており、描かれる人々や街の風景も、中国色がかなり濃くなっています。
スポーツのページにしても、中国のお家芸に割かれるスペースが多く、「飛び込み」の競技がやたらと詳しかったり、球技のページでは卓球だけに1ページ割かれていたりと、中国人が何に関心をもっているかがよくわかります。
表紙に書かれている「日本では描けないイラスト満載」というのはこのことを言っているのでしょう。
お互いの国に共通の言葉や行事などは、簡単に単語を言い換えればそれでわかった気になってしまうものですが、お互いがその言葉の背後にイメージしているもの、あるいはある事物についての知識の量はまったく異なっているかもしれません。
たとえば、日本人の多くは野球についてひととおりのルールを理解していますが、中国人はそうではありません。
本書は、そのようなギャップを埋めていくために有用な一冊です。ぜひ一度書店で手にとってみてください。