中国語検定の日文中訳攻略法―九九のように短文を覚える

日本語を中国語に訳すことへの苦手意識

中国語検定では4級から1級まで、筆記問題の最後の問題は、短い文(章)を中国語に訳すものが出ます。(準4級では単語だけを訳す問題が出ます)

主に日本国内で中国語を勉強していた自分は、この日文中訳の問題が苦手でした。思えば、大学入試の勉強をしているときも、日本語を英語に訳す問題には手を焼いていた記憶があります。

わたしと同じように、この手の問題に苦手意識をもつ学習者は多いのではないでしょうか。「漫然と勉強しているだけではなかなか成果が上がらないな」というのが、初学者の頃の自分の感想です。

突如として上がる難度

2級くらいまでの問題だと「ああ、この文法項目を使えということだな」ということが透けて見えてくるのですが、準1級あたりから、日本語原文も長く、持ってまわった言い方になり、成語を使うものがあったりと、難易度は急上昇します。

ためしに実際の4級から1級まで出題された問題を見てみましょう。(日本中国語検定協会が公開しているものを引用)

林先生はわたしたちに英語を教えてくださいます。

第99回 4級

今年の夏休みにわたしは北京に行かないことにしました。

同 3級

たとえあなたがわたしに言わなくても,わたしは何が起こったかを知っています。

同 2級

このところ,平均的な中国都市部の居住民の給与所得が大幅に増加していることは疑う余地のない事実ではあるが,跳ね上がり続ける家賃に比べたら,収入の増加は取るに足らない微々たるものだと言うべきだ。

同 準1級

特許庁は 31 日,中小企業の知的財産保護を後押しするため,全国で講習会や審査官による出張面接を集中的に実施する「巡回特許庁」を 7 月から始めると発表した。出張面接では,書面上のやりとりで特許申請の趣旨を正確に伝えるのが難しいケースに対応する。

同 1級

このような、短めの文を限られた時間で訳すという問題を解くあたっては、やはり大量の表現を頭の中にストックしておくことが必要だと考えています。

特に、日本で生活し、日本語で生活している人には有効な学習法です。

九九を覚えるように短文を覚える

わたしたちは小学校で九九を暗唱しますよね。これは、その後に出てくる複雑な計算をスムーズにできるように、とにかく頭の中に叩き込んでしまうという考えのもとで課されています。

3 × 4 = 12

7 × 8 = 56

などがすぐに出てこなければ、複雑な計算を手早くこなすことができません。

やはり、九九を早いうちに脳内にインストールしておくように、頭の中に文の材料をストックしておき、必要に応じて即座に出し入れできければなりません。

長文の暗唱もおすすめですが、長文の暗唱では出だしの文を呼び水にして次の文、さらにその次の文、という風に、話の展開に合わせて芋づる式に想起していくような記憶の呼び出し方になりがちですので、よほど習熟しなければ、即座に言いたいことを思い起こすことは難しい。

そこでわたしがおすすめする瞬発力の鍛錬法は、短文の暗唱です。

「こんにちは」や「ありがとう」でしたら、間髪入れずに“你好”、“谢谢”と出てくると思います。

これをさらに文字数の多い文でできるように、「手持ち」の表現を増やしていきます。

そう、まるで小学生が九九を覚えるように、さまざまな表現を覚えてしまうのです。

もちろん、九九のように81個だけでは済みません。人間の言語は複雑です。わたしの経験からですが、その100倍を目安に8000〜10000くらいの短文を覚えることができれば、1級で出題される日文中訳にも対処できるようになるでしょう。

小学生の100倍頑張る必要がありますが、今のあなたはもう大人です。車だって運転できるし一人で海外にだって行ける。結婚だってできるし家のローンも組めてしまうのです。大人になってできることは小学生の100倍はあるはずです。

それでは、いったいどんな教材を使えばその数に到達できるのか、わたしの経験からおすすめの教材を選んでみました。

日文中訳 短文暗唱おすすめ教材

わたしが使ってきた短文集を紹介します。

通訳メソッドを応用した 中国語短文会話800(800文)

通訳メソッドを応用した 中国語中級会話700(700文)

通訳メソッドを応用した シャドウイングで学ぶ 中国語難訳語500(500文)

中国語作文のための短文練習―中文造句(600文) ※音声なし

中国語常用フレーズ辞典(約5000文)※音声なし

浅近聊天 中国語学習シリーズ1 (360文)※音声なし

東鱗西爪 中国語学習シリーズ2(500文)

上記を全て覚えると、8460文となります。

一部の教材は音声がついていませんので上級者向けですが、準1・1級を目指す方であれば音声の有無はそれほど問題にならないのではないかと思います。個別の教材の特徴については、また別の機会にご紹介します。

比較的新しいものでは、以下のシリーズがあります。

口を鍛える中国語作文 初級編(600文)

口を鍛える中国語作文 中級編(600文)

口を鍛える中国語作文 上級編(600文)

瞬訳中国語 初級編(700文)

瞬訳中国語 初中級編(700文)

瞬訳中国語 中級編(700文)

上の6冊は、中国語独学サポートを受講している方が何人か使用されているのですが、暗唱チェックなどで一緒に読んでいるうちにわたしも完全ではありませんが、なんとなく覚えてしまいました。

この6冊で計3900文、上の8460文と合わせると、計12360文となり、10000文を優に超えます。

少しひねった言い回しなどは日常会話ではなかなか身につきません。積極的に自分で表現に触れ、意識的に頭に入れていく必要があります。

短文暗唱は2次試験対策としても有効

準1級と1級では、筆記形式による1次試験の後に、面接による2次試験が行われます。

日本語を中国語に、中国語を日本語に訳すという問題が出されますので、瞬間的に両言語を行き来する短文暗唱のトレーニングは、2次試験対策としてもきわめて有効です。

「日本語でも聞いたことがない」ような文が出てくるかもしれません。そのあたりは読書をしたり、ニュースを注意深く聞くことで、普段から語彙を増やそうとする意識が必要です。

単純作業とともに暗唱をこなす

こういった前後に脈絡のない短文を覚えるのは、結構な根気が要ります。普通に机に向かって練習することができればいいのですが、それもなかなか大変です。

というわけで、わたしはあまり頭を使わずにできる単純作業と並行して短文の暗唱をしていました。

昔、中華料理店のバイトで閉店後の皿洗いをしているときに、短文集のページをコピーしたものを壁に貼り付け、それを唱えながら仕事をしていました。

客席から次々に運ばれる大量のお皿、厨房から送り出されてくる巨大なスープ鍋、油だらけの調理器具など、ものすごい量の洗い物と格闘しながら、ブツブツブツブツと、無心に文を唱え続けていました。

職場に勉強を持ち込んでいたわたしを、奇妙なものを見る目で(生)暖かく見守ってくれていたお店の方たちには感謝しています。

また、大学で講師をしていたときには大学の最寄り駅からひとつ前の駅で降りて、20分ほどの道のりを歩きながら暗唱をしていました。夏は暑くて大変でした。

掃除や洗濯といった家事と並行して短文を唱えるというのも有効です。この手法は、長澤信子さんという方が、『台所から北京がみえる』という本で紹介しています。わたしもこの本から大きなヒントを得ました。(以前に紹介したブログ記事

身の回りを見渡してみればコマ切れの時間はけっこうたくさんあるはずです。自分なりに工夫して、スキマ時間を短文暗唱にあててみることをおすすめします。