発音を学ぶときに意識しておきたい3つのステップ―あなたはどこまで行きたいの?

中国語の発音を習うときに考えておきたいのは、「自分はどこまでのレベルまでいきたいのか」ということです。

また、教える側は「受講者はどこまでのレベルを必要としているのか」ということを頭に入れておくべきでしょう。

発音が良いに越したことはありませんが、後にも書くように、発音の良さを追究しはじめると終わりがありません。語彙の習得や読み解き、作文に専門分野の勉強など、発音以外にも学ぶべきことはいくらでもあります。

ときに、講師の過剰な要求によって、学習者に余計な負担を強いてしまうこともあります。

発音の習得度を大きく3ステップにわけました。自分がどこまで行きたいのかを考えて、有限なリソースをうまく活用する参考にしてください。

1.中国語の音の出し方を知っている―「とりあえず伝わる」レベル

いわゆる「まあ通じればいい」というレベルです。ここの段階は誰もが到達しなければなりません。

声調、ピンインの読み方をおおまかに知り、有気音と無気音の対立などがわかっていて、たどたどしくても、中国人から頻繁に「あ゛ぁ?」と聞き返されても、ときに筆談になってしまっても、なんとか意思が伝えられるレベルです。

“u”を日本語の「う」で発音しても、“ba”と“pa”を、「ば」と「(強い)ぱ」で発音しても、“n”も“ng”も「ん」で発音しても、とりあえずOK、くらいの感覚です。

「すぐに中国に行かなければならない」とか、「とにかく速く学習をしてしまいたい」という方はこの段階でかまわないわけです。

ただし、あまり長くこの1の段階に居続けると、いざ2や3のレベルを目指そうとしたときに、頭の中に強固に根付いてしまった音のクセをとるのに苦労します。

とりあえず1までを習得し、今後も中国語の学習を継続する心づもりがあるならば、早い段階で2を目指していってほしいところです。

2.聞き手にストレスを与えないレベル

「ああ、外国人だね」ということはわかるけれど、聞き手にとって意思疎通に支障はなく、聞き返されることもあまりない、というレベルです。

もちろん「この音が苦手で」というのは残っていることが多いです。それはそれで仕方ありません。余裕があればゆっくり改善していけばいいのです。

できればこの段階を目指しましょう。1.で書いたとおり、クセが頭に定着してしまわないよう、できるだけ学習の早い段階で1から2に到達してしまうことが望ましいといえます。

しかし、1の段階に長くとどまっていた人でも、正しい指導を受けることができれば、比較的短期間で2に到達できる例が少なくありません。

3.中国語話者(ネイティブ)と同じ水準を目指す

万人にはおすすめできない「沼」が広がっているのがこの3の段階です。頂上が見えないという意味では、「沼」よりも「青天井」と言うほうが(イメージ的にも)ふさわしいかもしれません。

一つの目安が中国人のアナウンサーやナレーターのレベルですが、それが絶対的な正解というわけではありません。中国大陸と台湾でも異なりますし、“标准”であることを過度に追究していくと、意味のない方言、なまりの蔑視に繋がる危険もあります。

「ネイティブ」とは言っても、日本人がNHKのアナウンサーのように話せるようになるには相当の訓練を経る必要があることからもわかるとおり、日常生活で必要とされる水準を超えて訓練をしなければなりません。

1と2の段階では比較的問題が見えやすいです。「声調が違う」とか、「有気音の出し方が甘い」とか、「そり舌が十分でない」など、問題を指摘しやすいので、上達も早いです。

一方で、3の段階では「合っているけど美しくするにはもっと○○するべき」という、終わりないカイゼン作業が必要になってきます。また、美意識の問題になってもくるので、講師の好みが反映されることも少なくありません。

いずれにせよ、短距離走の選手がちょっとずつタイムを縮めていくような、地道な検証と練習が必要です。

自分の時間とお金をそこに投じることで、果たして満足を得られるのか、実利が得られるのか、ということは真剣に検討するべきでしょう。

求めるレベルを意識しておけば、リソースを無駄にせずに済む

もちろん、1と2と3には明確な境界があるわけではありません。また、これよりも細かい分け方もできるかもしれません。

上にも書いたとおり、重要なのは、「自分はどこを目指すのか」ということを自分で理解しておくことです。

そうでなければ、(特に発音にうるさい)講師は際限なく要求を上げてきて、学習者はいちいちダメ出しを受けることになります。普通に使うレベルには十分に達しているのに「君はまだダメだ」なんて言われて、講師を信頼していればしているほど落ち込んでしまう可能性があります。

発音が良いとなんとなく上手に見えてしまうので(実際に上手な人は発音が良いことがほとんどですが)、発音はそれだけでマウントを取れてしまう代物です。講師もダメ出しをしやすいので、「矯正」の名の下に、いつまでも受講者に「まだまだだね」と言えてしまいます。

限りある時間とお金を有効に使うためにも「自分はここまででOK」という線引きは必要でしょう。とはいえ、学習歴が浅い段階では自分で判断できないことが多いので、講師に「自分の音はどのあたりのレベルですか?」と尋ねてみて、返答を聞いた上で自分の求めるものに合わせた指導をお願いするのもいいでしょう。

良心的な講師ならば、きちんと客観的な評価をしてくれて、無意味に良い発音だけを要求することなく、本来の目的に合わせた指導をしてくれるはずです。

ちなみに、(良心さに定評のあることでは日本有数の)わたしのレッスンでは、(個人差を無視してざっくり言うと)5回のレッスンで、中国語未経験者であれば第2段階入り口、既習者であれば第2段階に完全に到達できることを目標としています。第3段階を目指して継続的に学んでいる方もおられます。

わたし自身も終わりなき第3段階の学習の途上ですし、どうすれば客観的な説明で第3段階に至る方法を伝えられるのか、研究している途上です。