
中国語の音読を練習する際には、やみくもに回数を重ねることはおすすめしません。
合っているのか合っていないのか、上達しているのかしていないのか、そんな不安を抱えながら、時間と労力を投じ続ける音読練習は遅かれ早かれ挫折する運命にあります。
そのようなムダを回避するための、音読練習のステップを紹介します。
音読の回数を重ねる前に、発音を固める
急がば回れ―まずは「音作り」から
音読を中国語学習に取り入れる前に、信頼できる指導者から発音の手ほどきを受けることをすすめます。
“mā”とか“má”とか、今さら面倒くさく感じるかもしれません。早く意味のある文を読んで中国語の世界にひたりたい気持ちはわかりますが、急がば回れです。
「自分で自分の音ができているかどうかわからない」という方は、だいたいにおいて「できていない」と考えていいでしょう。いちど誰かに見てもらうことをおすすめします。
- 完全に独学で中国語を勉強している
- 集団授業でしか中国語を学んだことがない
- 中国語の音の出し方について、母語で細かく説明を受けたことがない。
上のいずれかにあてはまる方は、どこかでマンツーマンレッスンを受けられることをおすすめします。
すぐにフィードバックを受ければ上達する
マンツーマンレッスンのいいところは、その場ですぐにフィードバックが受けられることです。
スポーツで圧倒的な成果を出す選手を輩出する指導者の方法論を分析し、効果的な練習法について解説してくれている、『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール』(ダグ・レモフ 他・著 依田卓己・訳 日経ビジネス人文庫)という本があります。この本では、フィードバックを「すぐに」受けることの重要性が、このように書かれています。
行動の変化においては、結果の「速度」が結果の「強さ」をほぼつねに打ち負かす。行動を変えたいなら――練習で行動を戦略的、意図的に改善したなら――フィードバックのループを短くすることだ。参加者に「すぐに」フィードバックを伝える。たとえあとでもっとくわしいフィードバックを伝えられるとしても、すぐに伝えるほうがパフォーマンスははるかに向上する。もっとも重要なのは、スピードなのだ。
『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール』 p.188
マンツーマンで教わることの利点は、「すぐに」フィードバックを受けられるという点にあります。
もちろん、短期間のレッスンでいきなり発音が完璧になることはありませんが、完璧主義に陥る必要はありません。
母音の出し方、有気音の作り方など、おろそかにすると後々マズいことになるというポイントを押さえておけば、あとは自分で自分の声を録音をするなどして自分で修正していくことができます。
くれぐれも、独善的な練習に陥らないようにしましょう。
決して急がない、ゆっくりすぎるくらいで丁度いい
速く読むことに価値はない
「速く読めるとカッコいい」と思っていないでしょうか。まったくそんなことはありません。
あるいは、早く回数を重ねたいがために、ついつい急いで読んでしまってはいないでしょうか?
慣れない段階では、回数を重ねることに意味はなく、間違った音がアタマに定着してしまうことで、かえって目標とする音から遠ざかってしまうことがあり、修正に多大な労力と時間をかけることがあります。
「せっかく一所懸命に練習したのに、実は目的地とはまったく違う方向に向かっていた」
こんな悲劇を招かないための音読練習の方法を提案します。
はじめのうちは、とにかくゆっくり音読
必要なことは、一音一音を確実に出し、それをつないでいくことです。最初の方は、これでもかというほどにゆっくりと読んでいきます。
この段階は、野球選手が鏡を見ながらゆっくりとした動作でフォームを確認するのに似ています。
再び、『成功する練習の法則』から引用します。
極寒のロシアにあるボロボロのテニスクラブが、全米のテニスクラブを合わせたよりも多くのトップ20の女子選手を輩出した秘密について書いている部分です。
答えは、白髪混じりでトレーニングウェア姿のコーチ、ラリッサ・プレオプラジェンスカヤがいるからだ。彼女が教える選手たちは、「練習で永遠になる」という教えにしたがっている。練習によって動作が筋肉の記憶に刻みこまれるのなら、すばやく不正確にやるより、ゆっくり正確にやるほうがいいということだ。
『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール』 p.25
「声を出す」ということも筋肉の運動であり、スポーツと何ら変わるところはありません。「すばやく不正確にやるより、ゆっくり正確にやる」ということを胸に刻みましょう。
したがって、教材についているお手本音声にいきなり合わせようとすることはおすすめしません。音読に慣れていない学習者にとって、お手本の音声は速すぎることがあります。
とはいえ、お手本なしでは心もとないでしょうから、速度を調整できるプレーヤーなどを使って、自分が余裕をもってついていける速度から練習しはじめるといいかもしれません。教材によっては、ゆっくり読む音声と、普通の速度で読む音声の2通りを用意してくれているものもあります。
音同士をなめらかにつないでいく
一音一音を確実に出し、その音を今度はなめらかにつないでいきます。この、「なめらかに」というところがポイントです。
断絶したレールのようにバラバラに置かれていたレールをつなぎあわせ、継ぎ目のないジェットコースターのコースをつくっていくイメージです。
どのぐらいのスピードで練習すればいいのか、文字だけでは説明しづらいので、解説の音声を録ってみました。
この、継ぎ目のないジェットコースターのコースが出来上がってはじめて、自然な速度を意識します。この順序をおろそかにすると、ガタガタしたレールの上を走るジェットコースターは脱線し、朗読は崩壊します。
危なっかしくてヒヤヒヤさせられるコースターよりも、多少遅くても安全が保証されているコースターに乗りましょう。速度を上げるのは、あなたの技術が一定の水準に達してからでも遅くはありません。
まとめ
今回の記事の要点です。
- はじめのうちは回数よりも質の向上に力を入れる
- そのためには、なるべく早い段階でマンツーマンでレッスンを受け、大まかにでもいいので中国語の音の出し方を把握する
- 速度よりも正確性。一音一音を正しく出す
- 個別の音を正しく出すことができたあとに、音同士をなめらかにつなぐ
- 音がなめらかにつなげるようになったら、自然な速度を意識して読んでいく
この順序を守ることで、あなたも自分で読んでいて心地よくなるような音読の技術を身につけることができます。
気持ちいいからたくさん読めるようになる
自分が心地よく音読できれば、音読練習が「快感」になり、あせって早く読むよりも結果的に回数は伸びやすくなります。
イヤイヤ回数を稼ぐのではなく、自分の声が気持ちいいから、「つい」たくさん読んでしまう。そうすると、練習はどんどん心地よいものになります。
どうせ誰も見ていないところで練習するのですから、思いっきり自分の声にウットリしてみるのもよいのではないでしょうか。応援しています。