書名はヘンだが役に立つ―『はじめての人の中国語 海岸通りナジュサロンタビル3階2号室』

今回紹介する参考書は、以前に紹介した『漢語からみえる世界と世間』の著者である中川正之先生の編んだテキスト、『はじめての人の中国語 海岸通りナジュサロンタビル3階2号室』です。

「はじめての人の中国語」はともかく、「海岸通りナジュサロンタビル3階2号室」とは一体…?

「海岸通りナジュサロンタビル3階2号室」とは、講義が行われる教室があるビルの一室という設定なのです。

でも、なぜナジュサロンタビルなのでしょうか。何かのアナグラム?

本書は先生と生徒5人の対話形式ですすむ講義形式のテキストで、通読することによって中国語文法の概要が学べるという体裁をとっています。

『はじめての人の中国語』というタイトルなので、会話などが一通り学べるテキストかと思ってしまうかもしれませんが、これは独習用の中国語文法の参考書です。

音声CDなどは付属していませんので、「はじめての人」がこの本だけで勉強するのはおすすめできません。

本書の本文の大部分は先生と生徒の対話で成り立っています。

生徒役にも、大学生や法学部教授、英語教師に主婦、大阪のおっさんなど、さまざまな性格が付されたキャラクターが配されているので、みんなのかけあいを楽しみながら読み進めることができます。

本書の独特なところは、最初の方で中国語の単語の成り立ちに触れていることです。

これは、「中国語の単語の作り方と、文の作り方の原理は同じである」という原則にもとづいてのことです。

そして、日本人がすでに大量に持っている漢語(“汉语”ではなく「日本語の中に用いられる,中国から借用した単語」)の知識を援用して理解することを勧めています。

はじめに、「日没」型、つまりSV<主語+述語>からはじまり、「開花」型のVS<述語+主語>や「読書」型のVO型<述語+目的語>などにも言及しています。

「開花」型のVS文はいわゆる「存現文」で、一般的な文法書では後の方で登場することが多いのですが、日本語の知識を持ち込むことで、無理なく理解させることに成功しています。

中国語文法の最小構成単位である単語のつくりから理解することで、中国語が単純なSVOの文型だけでできているのではないことを、はじめに知ることができます。

中国語の文法を考えるときに、どうしても英語文法などとからめて考えてしまう人は、この部分だけでも読んでみる価値があるでしょう。

実は、日本語話者の頭にはすでに中国語の考え方がインストールされていることに気づかせてもらえる1冊です。

発音という大きなハードルはありますが、日本人にとってやはり中国語は学びやすい言語なのです。