《战狼》(『ウルフ・オブ・ウォー』)―映画・ドラマで学ぶ中国語

最近話題になっている言葉が、中国の「戦狼外交」です。読んで字のごとく、戦う狼のように好戦的、挑発的な外交姿勢のことを指していうものです。

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その形容の当否は置いておいて、「戦狼外交」という言葉の元ネタが、《战狼》(邦題『ウルフ・オブ・ウォー』)というタイトルのアクション映画だということはなんとなく聞いていました。

では、いったいどんな映画なんだろうと気になってきたので、ひとつ久しぶりに中国映画を観ようと思い、腾讯视频で鑑賞しました。

あらすじ

主人公は「冷锋」という名前の軍人。部隊でスナイパーをしている。麻薬密売組織を急襲する作戦行動のときに、人質を取る敵をライフルで射殺。人質は無事だったが、危険を顧みない行動が問題視され、謹慎処分に。

彼に目をつけたのが、「龙小云」という名の女隊長が率いる「戦狼」という特殊部隊。何やらすごい腕をもつ精鋭集団らしく、冷锋はときに反発を呼びながらも仲間として認められていく。

そんな中、国境付近での軍事演習に乗じて、中国に謎の外国人部隊が侵入し、急襲してくるのだった。

ざっとこんなところですが、ストーリーは単純そのもので、『ランボー』みたいな話です。

五星紅旗のもと、国のために命を賭して戦う兵士たちの健気な姿に中国人の観客は熱狂したのかな、という印象を受けました。

まさか日本で公開されているとは思いませんでしたが、後で検索してみたら、『ウルフ・オブ・ウォー』というタイトルがついていました。

さて、あらすじはここまでにして、鑑賞していて興味深かった表現をメモしましたので、ここで紹介してみます。

映像とセリフをセットで理解し、覚えるというのは、記憶に残りやすい有効な学習法です。

背景となるシーンを紹介しながらの解説です。最小限にはとどめますが、ある程度のネタバレがあることをご理解ください。

《战狼》の中国語表現

走火

走火!走火!

(暴発だ!)

(5:31)

人質がいるにもかかわらず、冷锋がライフルを撃ったので、味方が「暴発だ!」と言っています。

“走 zou”には、「歩く」「行く」という場面で使われることが多いですが、「漏れる」「もとの形や形状を失う」という意味でも使われます。

“走火”で、「火が漏れた」、つまり、「銃が暴発した」となります。

酒后吐真言 jiǔ hòu tǔ zhēnyán

謹慎処分を受けている冷锋を訪ねてきた謎の女性。取り調べをしつつ、なぜか冷锋に酒を飲ませます。それに対し、冷锋が言ったセリフ。

您是想让我酒后吐真言呢?

(酔わせて本音を聞き出そうってのかい?)

(13:50)

「酒を飲んだ後には本音が出てくる」という意味のことわざです。

わたしも昔中国で働いていたとき、同僚の中国人にしこたま飲まされて、愉快げに“酒后吐真言!”と言われてました。“真言”だけでなく、他のものもいっぱい吐きました。

酒壮怂人胆 jiǔ zhuàng sǒng rén dǎn

茅台酒っぽい瓶からラッパ飲みで酒をあおり、自分がどれだけ酒に強いかをアピる冷锋。どうやら子供の頃から酒を嗜んでいたようで、こんなことを言ってます。

十二岁酒壮怂人胆,偷看女生洗澡

(12歳のとき、酒に酔って気が大きくなって、女の子の風呂を覗いた)

(14:23)

“酒壮怂人胆”とは、酒に酔って大胆な言動をして、人を驚かせる、という意味です。“壮”は「壮大」とか「勇壮」の「壮」で、「盛んである」という意味、“怂”は「驚かせる」、“人胆”は、「大胆」「胆力」「豪胆」の「胆」に相当します。

で、その「大胆な言動」というのが、女子の風呂を覗くことだったという…

给我个痛快 gěi wǒ ge tòngkuai

敵に撃たれて瀕死の兵士が、仲間に向かって言ったセリフ。

排长,给我个痛快

(小隊長、俺を楽にしてくれ)

(16:00)

“痛快”というのは「痛快」という日本語のとおり、「すっきりする」「気持ち良い」という意味。味方の銃でとどめを刺してもらい、楽になりたいという表現です。

刺头 cìtou

ヘリコプターに吊られて任務地に向かう冷锋に向かって、上官がつぶやいたセリフ。

这小子可是个刺头

(あいつは一筋縄ではいかないヤツだぞ)

(16:59)

“刺头”というのは、組織や上司の言いなりにならず、問題行動を起こす人のことを言います。要するに半沢直樹みたいな人のことですね。

逞英雄 chěng yīngxióng

要团队合作,而不是一个人逞英雄

(チームワークが重要だ、一人で英雄気取りをするのではない)

(20:02)

特殊部隊「戦狼」の上官が入隊前の冷锋に言ったセリフです。

“逞”は、「見せびらかす」「ひけらかす」「誇示する」という意味。スタンドプレーでもといた部隊を外された冷锋に釘を差しています。

领教 lǐngjiào

演習に向かう機内での兵士たちの雑談。女隊長である龙小云の噂話をしています。仲間たちが冷锋を冷やかしています。

你应该领教过的

(教えてもらったことがあるんだろう?)

(23:50)

「女隊長に個人レッスンをしてもらったんだろう?(ゲヘヘ)」という感じです。

ここでは「受け取る」という意味で“领”が用いられています。日本語にも「受領」「領収」「横領」といった語があります。

植入病毒 zhírù bìngdú

演習で、相手方の司令官が龙小云のしかけたウイルスに気づいて言ったセリフ。

更有意思的是,这个丫头还往我们的指挥系统里植入了一个病毒

(もっと面白いのは、あの女が俺たちの指揮システムにウイルスを仕込んだことだ)

(26:50)

ウイルスを仕込むことを、中国語では“植入”と言うようです。「植え付ける」ということですね。

不够塞牙缝 bú gòu sāi yáfèng

演習中、厳重な警戒態勢を敷く敵方を双眼鏡で偵察して味方が言ったセリフです。

就算咱三现在冲下去,那也不够他们塞牙缝

(俺たち3人が今突撃しても、あいつらの相手にならない)

(30:49)

“塞”は「ふさぐ」「詰める」、“牙缝”は「歯のすきま」という意味です。“缝”は4声で読むときは「すきま」という意味になり、2声で読むときには「縫う」という動詞として使われます。

“不够”は「足りない」という意味ですから、「(小さすぎて)歯のすきまにも引っかからない」、つまり「到底かなわない」という意味になります。日本語にも「歯牙にもかけない」という表現があります。

手黑 shǒu hēi

我还是感觉不太对劲,我们连长下手

(何かがおかしい、うちの連長はやり方があくどいからな)

(38:42)

演習中に異変を感じた冷锋のセリフです。“下”という動詞がついています。日本語でも「手を下す」という言い方をしますが、「何かを行う」「着手する」という意味ですね。

何かを行う手が「黒い」、つまり「やり方があくどい」「汚い手を使う」という意味になります。

失灵 shīlíng

敵の策略によってコントロールを失ったヘリコプターからの無線連絡です。

报告! 机内设备仪表,全部失灵,全部失灵

(報告します、機内の計器がすべてはたらきません)

(45:22)

“灵”は日本漢字では「霊」と書きますが、中国語では(薬や神仏、方法などが)「効く」という意味で使われることが多いです。それが失われたので、“失灵”で「効かなくなった」という意味を表します。

捍卫 hànwèi

因为它是中华人民共和国的国境线,是我们必须用生命和鲜血,誓死捍卫的地方!

(そこは中華人民共和国の国境線、われわれが生命と鮮血をもって、決死の覚悟で守らなければならない場所だ)

(51:38)

“誓死”は文字どおり「死を誓う」、つまり死を覚悟するという意味です。

“捍卫”は「守る」という意味です。目にすることの少ない語なので取り上げてみました。“”保卫“や防卫”とどう違うのでしょうか。

《1700对近义词语用法对比》(北京语言大学出版社,2005年)という辞書に、“保卫”との比較でこう書かれていました。

“保卫“的对象范围很广,可以是具体名词也可以是抽象名词;“捍卫”的对象只能是抽象名词,限于国家、政治路线等,不能是人。

(“保卫”が使える範囲は広く、具体名詞でも抽象名詞でもどちらでもよい。“捍卫”は国や政治路線などの抽象名詞しかとることができず、人間に対しては使えない)

(p.51)

「抽象名詞」というところがポイントのようです。「国境線」というのは人間が勝手に引いたものです。そういう概念や観念を守るときに“捍卫”が使われるようです。

死不了 sǐbuliao

他怎么样?

——死不了

(どうだ? ―死にはしない)

(1:00:30)

撃たれた味方を救った冷锋。別の仲間が、ケガのことを尋ねたのに対して“死不了”と言いました。

結果補語の“〜不了”で、「死には至らない」という表現であることはわかりますが、こういうときに“死不了”と言ったりするのかと、シリアスなシーンで感心していました。わたしだったら“他不会死的”とか言うでしょう。それでも合ってはいると思いますが、こういう補語の使い方に中国人と外国人の語感の違いを感じさせられました。

犯我中华者,虽远必诛 fàn wǒ zhōnghuá zhě , suī yuǎn bì zhū

最終的に戦いに勝利し(あっ、ネタバレしてしまった!)、司令官がつぶやいたセリフです。

犯我中华者,虽远必诛

(中華を犯す者は、どれだけ遠くても必ず滅ぼす)

(1:23:10)

このセリフ、映画の途中で味方が殺され、遺体が運ばれて皆が戦意を高揚させるシーンでも出てきました。ネットで調べただけですが、同様の表現は、班固の『漢書』にある“明犯强汉者,虽远必诛”というのがが初出だそうで、なかなか由緒あるセリフのようです。

上掲のリンク先によると、続編となる《战狼2》にも出てくるみたいですね。シリーズをとおしたこの作品のテーマなのでしょうね。(後で見たらポスターにも大きく書かれていました)

というわけで、今回の「声に出して読みたいセリフ」

犯我中华者,虽远必诛!

です。

中国語がわかる方なら、腾讯视频で無料で見られます。

https://v.qq.com/x/cover/1bnyfttijufe0cq.html