
第7話です。妹の明玉が根性を見せる回でした。
これを観ながら、わたしは中国人との宴会で白酒、紹興酒攻めに遭って吐きまくった過去を思い出して涙が出そうでした。
もちろん、問題児の父も期待を裏切らずトラブルを起こし続けています。
合胃口 hé wèikǒu
明玉から頼まれて、父の苏大强に料理を届けにきたレストラン店主の石天冬が、苏大强の食事に付き添っています。
怎么样,牛肉羹还合胃口吗?
牛肉のスープ、お口に合いますか?
——合胃口,合胃口。你这手艺是真好,这几天把我这胃都给吃开了!
——美味かったよ。いい腕してるじゃないか。ここ何日かですっかり食欲が戻ったよ!
6:45
“胃口”は、ここでは「(味の)好み」という意味で使われます。“胃口”に「合う」ので“合胃口”。そのまんまですね。
“胃口”には他にも「食欲」という意味があり、食欲の有無は“好/不好”で表されます。
「食欲」はそのまま“食欲”と言うこともできます。
苏大强のセリフ“这几天把我这胃都给吃开了”も興味深いです。
直訳すると、「ここ数日で、私の胃も開いた」となるわけですが、この“吃开”というのが結果補語の構造になっています。
石さんの料理を「食べた」、その結果として胃が「開いた」という流れがあるので、“吃开”となります。このような補語を自由自在に扱えるようになるのは、中国語学習者の夢ですね。
有头有脸 yǒu tóu yǒu liǎn
母の葬儀に出ていたことで重要な商談をすっぽかすことになった明玉は、その埋め合わせをするために一人成都に飛び、商談相手だった洪社長と駆け引きをします。そのときの洪社長のセリフ。
你看咱们都是有头有脸的有身份的人,对吧?你不想让我把事情做得太过分了吧?
俺たちは2人とも顔が利くし立場のある人間だろう? 俺にあんまり極端なことをしてほしくないだろう?
10:12
“有头有脸”は、「顔が利く、名誉や威信がある」という意味です。さすがは“面子”の国、という言い方です。
滴酒不沾 dī jiǔ bù zhān
明玉の立ち回りにより、洪社長は機嫌を直したかに見えました。四川名物の火鍋店に招待された明玉が酒を勧めますが、洪社長は携帯をいじり、明らかに気のない素振り。
来,洪总,咱俩干一杯。
さあ、洪さん、乾杯を。
——不好意思 我滴酒不沾。
すまないが、私は下戸でね。
上回爽约,不管任何的原因,都是我的过错,我先自罚一杯。
約束を破ったこと、いかなる理由であっても、私のミスでした。罰として先に飲みますね。
11:54
“滴酒不沾”は、「一滴の酒も飲まない」という意味です。つまり「下戸」。
「なぜ“喝”じゃないの? “沾”って何?」という疑問も湧いてきそうです。日本語ではほとんど使わないので馴染みがありません。
“沾”は、「濡れる、ちょっと触れる」という意味で使われる語です。お寿司を食べるときに、ちょっとだけ醤油をつけますよね? 決してドバドバと浸すことはしないはずです。ほんの少し表面に液体をつける、ああいう感じの動作が“沾”です。
この“沾”を使うことで、「口をつけることもしない」という、酒に対する忌避感が上手く表されています。こういう表現、たまりませんね。これを肴に何杯でも酒が進みそうな気がします。
さて、明玉の“爽约”(shuǎng yuē)にも興味がわきます。「約束を破る」という意味ですが、「『爽やか』がなぜ「破る」?」と思ってしまいます。
確かに、辞書にも「違える、違反する」といった意味が収録されています。
「爽」という字はもともと「明るい」という意味のようなので、「明るい→(遮るものが)何もない→なくなる」という風に意味が転じたのかもしれません(推測です)。
竖白旗 shù báiqí
度数の強そうな白酒をあおりまくって、なんとか洪社長の心をつなぎとめたかと思いきや、師と仰ぐ蒙さんからすぐに帰ってこいと命令が下ります。
蒙さんのセリフ。
那是我跟他在互相较劲,谁都不能表态! 谁表态谁就输了!
你知道你那么一去,你不是在替我解决问题,你是在,在替我竖白旗。告诉他我蒙某人已经输了!
あいつと駆け引きをしてたんだよ。本音を悟られてはいけない! 悟られた方が負けだったんだ!
お前は問題を解決してきたんじゃない。お前は、俺の代わりに白旗を上げてきたんだよ。あいつに、「蒙は負けました」って言いに行ったんだ!
20:48
“竖白旗”は「白旗を上げる」、つまり負けを認める、という意味です。日本語では「上げる」ですが、中国語では“竖”(立てる)という表現をするのかと感心したので今回取り上げました。
“较劲”(jiào jìn)にも注目しておきましょう。語の構造は、“劲”を「較べる」です。“劲”とは、「力」です。つまり「力比べ」「競り合い」という意味です。
このシーンではビジネスのシーンだったので、「駆け引き」と訳しました。
蹲 dūn / 靠 kào
苏大强にせっせと料理を届けていた石天冬。すっかり苏大强にも気に入られます。
ところが、ちょっとしたトラブルのせいで、次男の明成に家に入り込んできた犯罪者だと誤解されてしまいます。
明成に諭されて、あれだけ石のことを信用していたのに「自分は騙されていた」と誤解する父。「足の震えが止まらないよぉ……」となります。
我,我蹲会儿行吗?
ちょ、ちょっとしゃがんでていいか。
——没事没事没事
——大丈夫だから。
不行,明成,不行,我得靠会儿你。
いかん、明成、ダメだ。ちょっと寄りかからせてくれ。
36:55
こういう日常動作が以外と難しい。
“蹲”は「うずくまる」。ヤンキー座りとか、和式トイレのあの格好です。
“靠”は寄りかかる、もたれる、という意味です。そこから転じて、「頼りにする」といった意味もあり、「頼れる、信頼できる」ことを“可靠”と言います。
このシーン、微笑ましい場面でわたしは好きです。「こういうスキンシップっは日本人の父子ではないだろうなぁ」と思いながら見ていました。
(おまけ)老 lǎo
カンタンな語が意外な使われ方をする場面の紹介です。
再び、明玉と洪社長の火鍋シーンを見てみましょう。
这个涮鸭肠啊,最讲究火候了,稍微一烫就能吃。否则呢,时间久了就会老了,影响它的口感。
このアヒルの腸のしゃぶしゃぶはな、火加減が重要だ。ちょっとくぐらせるだけでいい。あまり火を通しすぎると、歯ごたえがなくなる。
14:30
それにしても辛そう……
“老”には「火を通しすぎる、煮すぎる」という意味もあります。ニュアンスはわかりますよね。食べ物が「老いてしまう」という表現は秀逸ですね。
対義語は、“嫩 nèn”(柔らかい、みずみずしい)です。
“口感”(kǒugǎn)は「歯ごたえ、口当たり」のことです。
比較的薄味の料理が多い蘇州人の明玉が、四川の激辛火鍋攻めに遭っているシーンは涙なしには見られません。
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というわけで、第7話も楽しんで視聴することができました。
ちょっとしたセリフの一つ一つに驚きと発見があります。外国語でドラマ・映画を見るのは、ストーリー以外にも言葉の面白さを味わえるので、最高ですね。
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それではまた、第8話でお会いしましょう!