第8話です。着々とアメリカ行きの準備を進める父の苏大强。
やっと父を兄のもとに送り出せるということで、ここ数日てんてこ舞いをさせられていた次男の明成夫妻も、高価な服を買ってやったり、友人たちとの宴席を設定してあげたりと、大盤振る舞いです。
しかし、アメリカに住む長男の明哲の方には暗雲が立ち込めていて……
それでは今回出てきた表現を見ていきましょう。
话里有话 huà lǐ yǒu huà
石天冬が泥棒に間違えられた事件の後始末のため、久々に明成家に足を踏み入れた明玉。案の定、明成夫妻との言い合いになります。
明玉が帰った後の、朱丽のセリフ。
不对啊,我觉得她说的话里有话。
何かヘンだよ。あの人は何か別に言いたいことがあるような気がする。
——你多想了,她没有那个智商。她说话一直就这么阴阳怪气的。
——考えすぎさ。あいつにそんな頭はないよ。いつもああいう不気味な話し方をするやつなんだ。
4:37
“话里有话”は、そのまま見てみると「話の中に話がある」、つまり、口に出していることとは違う意図がある、ということを言います。「言外の意味がある」とか「含みがある」などと言ったりもします。
“阴阳怪气”は第5話でも紹介した表現です。何やら怪しげな雰囲気、気味が悪い、という様子を言うものです。
苏大强はかなり明玉に怯えているように感じます。恐怖なのか、後ろめたさなのか、それとももっと別の何かなのか。今後明らかになるのでしょう。
破事 pòshì
父のことが心配で明玉に電話をかける長男の明哲。食事をしようとしているところを邪魔されて、苛立つ明玉とのやりとりです。
事情を知らずに上から目線で説教をかましてくる兄がいい加減うざいですね。
而且我觉得咱爸要是心情不好了,那还会生病,这一生病,怎么办签证,怎么来美国?
それに父さんがいい気分でいられなければ、病気になるだろう。病気になったらビザを取ってアメリカに来られなくなるじゃないか。
——大哥,我好不容易坐下来,安静地吃顿饭。你能不拿苏家这点破事再来给我添堵了吗?
——兄さん、やっと腰を落ち着けてゆっくり食事をしようとしてるんだから、蘇家のどうでもいい話で邪魔をしないでくれる?
13:25
“破事”でそのまま辞書に載っているケースは稀でしょう。こういうときはそれぞれの字に分解します。“事”はそのまま「こと」ですね。
“破”には、「壊す」「破る」という意味から転じて、その結果として「ぼろぼろの」という状態を表します。そこから転じて、「どうでもいい」「くだらない」という意味で使われます。
“添堵 tiāndǔ”は、辞書(小学館『中日辞典』第3版)には「いらいらさせる」「不愉快にさせる」という意味が載っています。
こちらも分解してみると、“添”は「付け加える」です。“添麻烦”(迷惑をかける)という表現でよく使われます。
“堵”は“堵车”(渋滞)などの語でも使われるように、「つかえる、遮る、つまる」という意味です。
確かに、辞書には「いらいらさせる」という訳がありますが、「スムーズにいっていたものを滞らせる」というニュアンスがあるので、このシーンではやはり「邪魔をする」あたりの表現が適切でしょう。辞書の記述はあくまでも参考にとどめましょう。
拗不过 niùbuguò
米国行きを控えた父の苏大强は(明成夫妻に金を出させて)、友人たちを宴席に招きます。乾杯の前に一席ぶつ苏大强。
美国,我不想去。我真的是不想去。你说在这片土地上啊,活了一辈子了吧快。真不想去,可是我这大儿子和儿媳妇呢,我拗不过他们哪。
アメリカなんて行きたくない。本当だよ。この土地で生涯を終えようというのに。まったくもって行きたくはないんだ。しかしなぁ、長男夫婦がどうしてもと言ってきかないんだよ。
24:06
まず、“拗”を単独で見てみましょう。これは、「意地を張る」「かたくなである」という意味です。
これに“不过”という方向補語がつく形になっています。
この“不过”は、「〜しおおせない」「かなわない」という意味で用いられるもので、ある行為において相手を追い越せない、勝てない、というニュアンスで用いられます。
「相手」(ここでは長男夫婦)という関門を「突破できない、通過できない」という風に理解すると“不过”が使われる意味がわかると思います。
苏大强はアメリカに行きたくないと意地を張っているのだけれど、長男夫妻の「父にアメリカに来てほしい」という意志の方が強く、意地を張り通せなかった、ということで、“拗不过”となるわけです。
まあ、実際にはそのような事実はなく、苏大强はウキウキでアメリカ行きの支度をしており、長男夫妻も、父を受け入れるかどうかで揉めに揉めているわけですが……
风水轮流转 fēngshuǐ lúnliú zhuàn
宴会が終わり、上機嫌で帰宅した父の苏大强。酒に酔ってふらふらになりながら語ります。
我,我就是想让老高看看,让他看看风,风水轮流转。
わしはなぁ、高さんに目に物見せてやりたかったんだ。いつまでもいい気でいるなってな。
——是是是。
——そ、そうですね。
你年轻的时候,他牛。老了不行了吧。丽丽,人老了比啥呀? 比子女! 就是比,比你们,比子女 。我高兴啊!
若い頃にはあいつは勢いがあったが、年を取ってからはさっぱりだ。丽丽、年を取ったらな、自分の子どもで勝負するんだよ。わしは嬉しいぞ!
31:33
苏大强が宴席を開いた真の目的は、かつて自分を見下してきた老高(高さん)に、自分の幸せを見せつけるためでした。宴会でも、左隣に座っていた高さんとは乾杯せずに素通りでした。
“风水轮流转”は「世の中は常に移り変わる」ことを言ったものです。「驕れる者は久しからず」とか「諸行無常」というニュアンスでしょうか。
かつての上司だった高さんから不当な扱いを受けていたのでしょう。子どもたちが立派に育ち、金を稼ぎ、親孝行をしてくれて、アメリカ行きまでも実現しようとする姿を見せびらかして、立場が逆転したことをアピールしたかったのでしょう。
やっていることはあまり立派ではありませんが、これまで妻や職場で押さえつけられて、小さくなって生きていた苏大强が、プライドを取り戻したことの証だったのでしょう。苏大强という人物の哀しさ、滑稽さを端的に表す場面で、複雑な気分にさせられます。
大气不敢出,大脚不迈 dàqì bù gǎn chū,dàjiǎo bú mài
先ほどのシーンの続きです。
すっかりいい気分で酔っ払って、倒れ込んでしまった苏大强の介抱が終わると、朱丽が明成にこんなことを言います。
你看啊,我从嫁到你们家来以后呢,你爸就是一直躲在你妈后面的,大气不敢出,大脚不迈的。哪像今天这样啊? 扬眉吐气,傲对群雄,他简直判若两人哪。”
ねえ、結婚してからずっとお義父さんはお義母さんの陰に隠れてコソコソしてたでしょ? 今じゃウソみたい。大いばりでみんなの前で偉そうにして、人が変わったみたい。
33:21
“大气不敢出,大脚不迈”をみてみましょう。“大气不敢出”をそのまま訳すと、「大きく息を吐くこともためらう」です。“敢”は「○○する勇気がある」とか「敢えて○○」する、という意味で使われます。否定にすると「(勇気がなくて)とても○○できない」となります。関西弁でいうと、「よー○○せん」ですね。
そして、“大脚不迈”は、「大股で歩かない」です。“迈”は「邁」の簡体字で、「目標に向かって邁進(まいしん)する」などと言いますね。「足を踏み出す」という意味です。
つまり、“大气不敢出,大脚不迈”は、息をするのも歩くのもコソコソしていて、堂々としていない、という意味になるわけです。
せっかくなので他のものも見てみましょう。
“扬眉吐气 yáng méi tǔ qì”は、「意気揚々としている」です。眉を上げて鼻息荒くしている様子がイメージされます。
“傲对群雄 ào duì qúnxióng”は少し難しい。辞書にもあまり載っていません。一文字ずつ分解してみましょう。
“傲”は「傲慢」の“傲”です、「偉そうにする」「おごる」という意味。“对”はここでは「向き合う」という意味です。
“群雄”は、「英雄たち」ということで、「立派な人たち」という風に読めばよいでしょう。宴会に呼んだかつての同僚や上司たちを指します。つまり、“傲对群雄”は、並み居る大人物たちの前で大いばりをしている、という意味になります。
最後に“判若两人 pàn ruò liǎng rén”です。これは、「二人の人間であるかの若(ごと)く判ぜられる」と読めます。つまり、「まるで別人のようにみえる」ということです。
このシーンは、「なんてかっこいい表現をするんだ」と別の感動をしながら見ていました。とっさにこんなセリフが言えたら、もう何も思い残すことはないでしょうね。
(おまけ)签证 qiān zhèng
さて、今回も「おまけ」と称して一見カンタンな語が意外な使われ方をする場面を見てみましょう。
这身怎么样?
この服はどうだ?
——好看,特别适合去签证!
——素敵。ビザの申請に行くのにちょうどいいですね!
9:45
どうってことのないセリフですが、“去签证”という表現にひっかかりました。確かに“签证”は「ビザ(査証)」という意味ですが、これをそのまま「ビザ」と読んでしまうと、“去”が直前にあることが不自然になります。
“去北京”とか“去她家”のように、場所を表す名詞が目的語になるなら不自然ではありませんが、「ビザに行く」は明らかに不自然です。
ここは、“签”を「署名する」という動詞として、“证”を「証明書」という名詞として考えるべきでしょう。
“签证”は「(入国を許可することを許可して)署名した証明書→ビザ(査証)」という名詞として見ることもできるし、「証明書に署名する」という動詞+目的語として見ることもできる、ということです。
(もちろん、署名するのは相手国の外交官であり、苏大强ではありませんが、そのあたりは、動作の主体が曖昧になりやすい中国語の動詞の問題に踏み込むことになりますので、ここでは多くを語りません)
いずれにせよ、日本語に訳すときは「ビザを申請しに行く」とすればいいのですが、ここをきちんと「動詞+名詞」という形で理解でるかどうか、というのは、中国語を学ぶ上でかなり重要です。
苏大强にフラグが立ちまくっている
というわけで、ウキウキ気分で米国行きの準備を整えた苏大强で、かつての同僚や上司たちにも大見得を切ってしまったわけですが、迎え入れる長男一家の雲行きが怪しすぎます。
ちょっと、第9話を見たくないような気分ではありますが、覚悟して鑑賞するとしましょう。
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先日も、記事を読んだ方から感想を頂きました。
わたしの解説をもとにノートまで作ってもらえるなんて光栄です。ちゃんと調べないと……と気が引き締まりますね。
ちょっと更新を滞らせてしまいましたが、書き継いでいきますので、これからもお付き合いください。
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それではまた、第9話でお会いしましょう!